農学部 応用生物化学科
教授 山下哲郎
生化学
岩手大学農学部山下哲郎教授らの研究グループは、盛岡市の株式会社浅沼醤油店と共同で岩手県の特産物である雑穀類を用いた発酵調味料に関して、化学成分の網羅的解析と官能試験を組み合わせた評価方法を確立し、科学的根拠に基づいた素材ごとの風味の特徴づけを行いました。本成果により、それぞれの素材の特長を生かした発酵調味料を商品化することが可能になり、地域食文化および食産業の発展に貢献できると期待されます。この研究成果は、関連分野において上位25%以内の国際学術雑誌(Q1Journal)であるFood Bioscienceに掲載されました。
国内でのしょう油の出荷量は年々落ち込み、1973年のピーク129万キロリットルから減少を続けており、2022年には69万キロリットルと、半分近くまで減少が続いています。全国で地域の味を支え続けてきたしょう油工場も、1955年には6000か所程あった工場数が2022年には1055か所と大幅に減少しています。地方のしょう油メーカーは、新たな商品開発や、海外への輸出など新たな市場を開拓しないといけない状況に迫られており、アレルギーに対応したしょう油やハラルやコーシャなど宗教による生活様式に対応したしょう油、GABAしょう油、血圧抑制しょう油などの機能性表示食品の開発が盛んに行われております。この現状を踏まえ、岩手大学農学部の山下教授らの研究グループは、盛岡市の株式会社浅沼醤油店と共同で、地域の食素材を用いたしょう油風発酵調味料を開発するための技術開発を行ってきました。
岩手県の地域資源である雑穀を中心に、しょう油風調味料を製造する方法を検討し、通常のしょう油と比較することで、異なる原料が製品の特性に与える影響を明らかにしました。具体的には、押麦、発芽玄米、赤たかきび、アマランサス、アワ、ヒエ、米ぬか、ひよこ豆、菜種しぼりかす、エゴマしぼりかすの10種類の原料と通常しょう油の原料から醸造した調味料の物理化学的特性、遊離アミノ酸量、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)による揮発成分の分析、色度計による色調?明度測定、定性記述分析法(QDA法)による官能試験などの包括的な分析を行いました。
各製品の成分分析の結果、原材料のタンパク質含量の高い原料は、発酵後の調味料中の遊離アミノ酸濃度が高くなり、味覚に影響を与えるアミノ酸を多く含んでいるトップ3は、通常しょう油と菜種しぼりかす、エゴマしぼりかすの順番になりました。揮発性化合物(香り成分)については、発芽玄米と押麦を除き、各原料でそれぞれ特徴的な香気成分を有していました。官能試験では、発芽玄米とひえを発酵させた調味料は同一グループに分類され、それ以外は別のグループとなりました。味覚アミノ酸、香り、官能試験の関係を統計学的手法により解析した結果、通常のしょう油は甘味とうま味が主な特徴でしたが、菜種しぼりかすから発酵させた調味料は苦味が主な特徴となりました。通常のしょう油を特徴づける香りは穀物臭や紅茶臭であったのに対し、菜種はダシ臭や香ばしい香りが特徴的でした。
今後は、本研究の成果である発酵時の水分や加熱条件などを基本条件として活用し、雑穀だけでなく様々な未利用資源をから素材の特長を生かした発酵調味料を製造することができると期待されます。また、原材料の化学成分の組成をあらかじめ把握することにより、どのような特長をもつ製品ができるのか予測することも可能になります。さらに消費者に対して、製品の特長を科学的に説明することにより、製品の差別化?ブランド化にも貢献できると考えられます。
題目:Development and characterization of Japanese soy sauce-like fermented seasoning with various ingredients
著者:Koichi Asanuma, Zhuolin Wang, Tamako Miyazaki, Chunhong Yuan and Tetsuro Yamashita
浅沼宏一(株式会社浅沼醤油店、岩手大学大学院連合農学研究科)、王 卓琳(岩手大学大学院連合農学研究科)、宮崎珠子(岩手大学農学部共同獣医学科)、袁 春紅(岩手大学農学部食料生産環境学科、岩手大学次世代アグリイノベーション研究センター)、山下哲郎(岩手大学農学部応用生物化学科)
誌名:Food Bioscience
公表日:2024年4月26日
DOI:
https://doi.org/10.1016/j.fbio.2024.104198
農学部応用生物化学科
教授 山下哲郎
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