理工学部 化学生命理工学科
准教授 芝﨑祐二
高分子科学
岩手大学理工学部芝﨑祐二准教授らの研究グループは、梨の皮に含まれる美白成分として知られるアルブチンを酸化重合し、生体適合性ポリマーとして知られるポリエチレングリコールを連結基とすることで、形状記憶特性を示す新規バイオマテリアルの創製に成功しました。
本成果により、ゼロエミッションを目指す世界の科学研究に対して、機能性材料の観点から大きく貢献できることが見込まれます。また、本材料は薬物送達材料(DDS)への展開も見込まれ、人々の健康増進と病の克服に寄与すると考えます。
地球温暖化や大気汚染が深刻化する中で、国際社会は一致団結して二酸化炭素排出を実質ゼロにする、いわゆるゼロエミッションを提議し、推進しています。ゼロエミッションの目標は2050年と言われ、エネルギー、材料、日用品、医薬品に至るすべての物質が現在の化石資源利用を考え直さなければならない時を迎えています。
芝﨑准教授らの研究グループでは各種天然フェノール、ポリフェノールの研究に取り組んでおり、この度、ヒドロキノンの配糖体であるアルブチンを水媒体中で高分子量化し、これを生体適合性ポリマーとして知られるポリエチレレングリコールと連結させることで、新規バイオマテリアルの創製に成功しました。この材料は水中では水を大きく吸収し、元の体積の2000倍まで膨らみ、高度な吸水性を示しました。また、フィルムは60℃程度で成型して一時形状を付与し、冷却することでその形状を92%の割合で記憶し、加熱することで元の形状を96%の割合で回復する、いわゆる形状記憶特性を示すことを見出しました。優れた形状記憶力はポリエチレングリコールの限定された鎖内での微結晶化に由来するものであり、また形状回復力はアルブチンポリマーとポリエチレングリコールの架橋構造に由来することをX線、偏光顕微鏡観察、示差操作熱量計による結晶化度の評価により明らかにしました。
バイオマテリアルをベースとした新規樹脂の開発はゼロエミッションの達成のため非常に重要な分野であり、世界中の多くの科学者が推進しています。多くが、樹木から得られるセルロースの改良、ポリフェノールの化学修飾によるエポキシ樹脂の開発に向かっており、セルロースの分野では石油代替プラスチックの用途が模索されています。また、ポリフェノールの分野では電気絶縁樹脂としての展開が想定されています。芝﨑准教授らは水中における触媒重合反応でアルブチンの高分子化を達成し、新しいバイオマテリアルとしての可能性を見出しました。今回、このアルブチンポリマーの利用展開の一つとして形状記憶特性という機能性を付与するため、分子の設計を行い、達成しました。
完全生体適合性ポリマーであるアルブチンポリマーとポリエチレングリコールの共重合体には形状記憶特性のみならず、ポリフェノールに由来する抗酸化性があります。また、芝崎らはこのポリマーのミセル粒子の創製にも成功しており、新たなナノ輸送カプセルとしてDDS分野に大きく貢献できる可能性を示しました。今後、化学メーカーを中心に共同研究を展開し、社会貢献可能な材料へ展開してまいります。
題目:Synthesis of shape memory bio-based crosslinked polymer: Poly(arbutin)-co-poly(tosyl arbutin)-co-poly(ethylene glycol)
著者:Kota Nishizawa, Tadashi Tsukamoto, Yoshiyuki Oishi, Yuji Shibasaki
誌名:Reactive and Functional Polymers (Impact Factor 5.1)
公表日:2024/4/5
本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
?文部科学省科学研究費補助金?基盤研究(C)「酸化重合による水溶性ポリアルブチンの両親媒性化とカプセル化に関する研究」(JP 18 K05211)研究代表者:芝﨑祐二
?(独)JST A-Step「ポリ(アルブチンーエチレンイミン)共重合体(PArb-PEI)と銀ナノ粒子複合体合成による農業資材用抗酸化、抗菌?抗ウイルス化塗布技術への展開」(VP29117938435)研究代表者:芝﨑祐二
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